水飼 茂の経営提言 (2020年9月15日掲載)
コロナ禍時代に備える靴・バッグ業界
現在社会はIT革命の真っただ中にあります。IT革命はコンピュータと通信などの情報技術(IT=インフォメーション・テクノロジー)の発展が、社会構造に巨大な変化を起す産業革命です。従来起きた農業革命と工業革命と根本的な違いは、市場を拡大させる革命ではなく、市場を縮小させる革命です。ITが国境や業界・職種などの様々なバリアを外し、超効率化による価格破壊を進める新産業革命なのです。
1 繁盛運を身に付ける
(1) 繁盛運とは
どんな時代でも重要なのが「運」です。「運」とは辞書によると、人知ではどうすることも出来ない成り行き」とありますが、そんなことはありません。幸運を引き寄せるには、自分の周りに強運を張り付けること。人・情報・物・金の全てを強運で囲みたいものです。
その第一は人、運の強い人の側に居ること。強運の人とは生命力が強く、ヒマと金に余裕がある人を指します。
第二は情報運です。情報運はファッショントレンド品や高額品ほど運勢は強まります。トレンド品や高額品を求めるお客様は強運の上客です。逆にトレンドを外した商品や低額品は弱運です。弱運商品はバーゲンになり易く、バーゲンに群がる多くの客は貧困層だからです。
第三は金運、強運の金とは利息の付かない金か、付いても低金利ほど運は強まります。このように考えると自分のお金が一番強運です。借金は弱運と言えましょう。収入>支出に努め自己資金を蓄え、体力強化を図りましょう。強い体力=強運なのです。
(2) 楽しい仕事
仕事は楽しくなければ長続きしませんし、お客様を集められません。ところが実情は辛い仕事に終始しています。それが商品・売場・接客に現れ客足を遠ざけています。靴小売店が年400店のペースで減り続けているのは、仕事の辛さが死事化を進め、店に楽しさが全く見られません。だいたい仕事が辛ければ長続きしません。仕事量=集客力だからです。
仕事の楽しみ方は、趣味の延長線上に仕事を選ぶ方法と、仕事の延長線上に遊びを求める方法の二つの私事があります。前者はトレッキング好きの方がアウトドアショップを開く、後者はドレス業態の人がパ―ティ遊びを楽しむケースです。遊びを通じて仕事の私事化を進めると、お客様とのコミュニケーションを深まり、結果的に繁盛店になれるのです。私事量=売上高の関係にあります。
(3) 強運の店造り
店造りは仕事の楽しさを表現するものです。そこで先ずは店の顔である外装から、外装はこの店は何を扱うかの「テーマ性」にあります。「テーマ性」を店名・ロゴタイプ」プ・色・素材で表します。
このように考えると、SC(ショッピングセンター)内店は外装がありません。外装が無い店はテーマ(主張)性を欠き、安
物ばかり売れてしまいます。ひと昔前、レディストレンド衣料の老舗専門店の鈴丹や、メンズの高級衣料専門店の高久が、昔の面影を失ったのは、SC内に出店して安物屋に成り下がったのが原因です。
一方内装は何を楽しむかの「自分の部屋」感覚作りが基本です。閉店時間がになっても「家に帰りたくない」売場が理想です。「自分の部屋」感覚へ変えるのは、自分の趣味を売場に持ち込むこと、チェーン店は実行 困難ですが、トップや幹部は少々ところ目をつぶっていたたき、売場を楽しくなるようサポートして下さい。閉店後、販売員が脱兎のごとく去る店に、繁盛することはありません。
(参考) 裏通り倉庫街にある古着店、外内装は古材を使用

弊社の春日部事務所は、広さ30㎡のウッドデッキに、アウトドアシアターやバーベキューセットが用意されています。港区にある東京事務所は、お客様サロンに、ホームシアター・AV機器・カラオケセットの設備がされ、仕事を楽しむ、楽しみながら仕事する空間になっています。快楽空間=お客様の帯店時間=客単価なのです。
2 巣もぐり業態が繁盛店
(1) コロナ禍時の売上増業態
コロナ禍時に売上を伸ばした店があります。その一つはホームセンター業態。外出自粛によるテレワークによって、「お家消費」が拡大したからです。ワークマンの既存店売上高は、この2月~4月期は前年対比5.8%増を記録しました。在宅娯楽を提案する商材のDIYや園芸、ペット用品が好調だったそうです。
次は「変身店舗」です。時間帯別に客層が変化するので、午前中はシニア、午後はミセス、夕方ティーン、夜ファミリーと店頭演出を変えたケースでした。更に「お伺い業態」が好調です。来店客の中から固定客を選び、固定客を定期的にアプローチ、親密度を高めて訪問営業するシステムです。ヒントは高齢者が増え続けている山間部で、来店者減を補うための訪問サービスカーでした。
3 繁盛店への道程
① 高価格化
商品は高価格品ほど、造る・卸す・売るのが難しくなります。売り筋を創る展開が、経営者・幹部・売場スタッフの能力を高め、「トレンドを知る」「トレンドを創る」英知の集団化にさせます。更に高価格化は客層の上層化を進め、現場を高揚させます。高価格客ほど上客で、高価格客ほど知性と教養を備えているから。価格=客層なのです。ビジネスは単に売れればいいのではなく、お客様から磨かれて商いを精熟させるもの。高価格体質へ移行させる理由がここにあります。
② 立地創造体質
売るのが困難な道を歩むため、人通りの少ない路面店を選びましょう。SC(ショッピングセンター)は客数の多い立地ほど下層客を集めます。その結果ラクに売れる品揃化を進め、靴専門店のMD力を低下させました。十数年前、名門アパレル「鈴丹」や「タカキュー」は、SC出店を選んで消滅しました。その本体のGMS直営靴売場さえ、現在売上不振に陥っています。靴専門店は路面出店を選び、お客様を自ら集める力を取り戻したいものです。
③ 独立・独歩体質
靴小売店はメーカー・卸・ブランドに頼る習慣から脱却して、自ら商品を企画し、自らブランドを確立するPB化を進めたいものです。百貨店の問屋からの消化仕入れ、問屋からの派遣社員で賄うノーリスク経営は、有力百貨店の体力を弱め、閉店が相次ぎました。靴・バッグ専門店も同様です。ブランドに頼る体質が接客力を弱め、靴専門店は毎年400店減り続けています。このままの状態が続けば靴店は、20年後に消滅する絶滅危惧種なのです。
4 AI革命に対してどう臨むか
AIとはArtificial Intelligenceの略で、人工知能のことです。人間の知能をコンピュータが学んでシステム化させ、ロボットに搭載する時代が来ました。ロボットが人に変わって仕事をする時代が、もう目の前に来ています。靴・バッグ業界はどう変るでしょうか。
①IoT時代の到来
IoTとは、Internet of Thingsの略で、あらゆるモノがインターネットを通じて、パソコンやスマホなどに繋がり、情報のやり取りが出来るようになる、新たなネットワーク社会が実現します。製造現場ではI Cタグ(無線荷札)により、生産工程の進捗度を把握、最適な作業方法を探り、生産効率が劇的に改善されるでしょう。小売店現場では来店客の動きをA I(人工頭脳)が捉え、最も効率の良い売場ゾーニングと、商品レイアウトをパソコン上に表示されるようになるのです。
②AIとIoTによる業界の近未来
・現在-----------靴のインソール内にI Cタグを挿入して、徘徊老人や幼児の位置情報を介護者のスマホで特定
・2022年---------AIロボットが接客するA I靴店とAIバッグ店が都市部から発生
・2025年---------靴とバッグ内のI Cタグと走行中のA I自動車と交信、車と事故を起こす交通事故は皆無へ
・2030年---------靴を履くだけ、バッグを持つだけで血圧や心拍数から体調を測る靴やバッグが開発される
・2035年---------手に持つA Iバッグと、履いたA I靴のICセンサーが体調異変を感知して、掛かりつけ医のPCやスマホへ送信
※ 電子情報技術産業協会、EY総合研究所、新エネルギー技術総合開発機構のデータから作成
③求められる人材は「芸術性」
AIに変わられる職種として、店舗要員の販売員やレジ係、倉庫要員の入・出荷業務、バイイング業務の受注・発注業務は、AIロボットが代行するようになります。では職を失わないようにするにはどうしたら良いでしょうか。A Iへ代替困難な職種は
・ アーティスト-----プロデューサー、脚本家、作曲家
・ クリエイター-----芸術家、デザイナー
・ キャスト---------俳優、役者
などと言われています。このように考えますと
・ 経営者はお客様の幸福物語を創作する、総責任者としてプロデューサー
・ バイヤーはお客様の幸福物語りの筋書きを創る、脚本家のシナリオライター
・ 店長は幸福物語りの劇場化を図る、舞台と演出を設定する現場監督のディレクター
・ 販売員はお客様と幸福物語りを演じる脇役、キャストと言えましょう。
AIロボットに職を奪われないために、スタッフ全員のアーティスト化が求められます。
5 現場はロボット に負けない接客力を持つ
① 経験を売る
お客様の感情を揺さぶらない売り方は、AIロボット販売員で充分です。そうでなくても単なるモノ売りは低価格化を進めます。靴・バッグ販売員が低価格品を売る背景は、未体験の商品を売っているから。自ら使ったことの無い商品を売るのは説得力を欠き、どうしてもウソが入ります。体験困難な商品は、お客様から経験談を聞いて、接客時に活用しましょう。
② 心動かして売る
販売員は商品に対して、強い思い入れを語らなくては、お客様の心を動かせません。言葉には魂(言霊)が籠っているからです。お客様にとって価値ある商品である商品物語、お客様をヒーロー・ヒロインに変えるブランド物語を、自らの言葉で表現しましょう。物語の無い商品は単なるモノ売り販売員は、AIロボット販売員に変わられるでしょう。
③ 世界観を売る
世界観とは、店は「どんな幸せを売るのか」、販売員は「お客様だけの幸せ」提案するのが、AI時代の売り方です。世界観のテーマとは、お客様の幸せな「ライフスタイル」なのか、お客様の幸福ドラマを組む「ストーリー」なのか、いずれにしても幸せ物語を増幅させる、関連商品を扱う業態型への転換が望まれます。現状の靴専門・バッグ専門の業種型は、世界観を語るのは困難ですし、利便性を売るのならAIロボットで充分です。「幸せ世界観売り」は人間でなければ表現困難でしょう。
④ 共感を売る
工業社会での販売員対お客様の関係は、BtoBのビジネス関係でした。損得関係の強いBtoBは、お客様から支持を得られません。現代のIT社会はBtoSへ移行させました。お客様とサポーターの関係です。サポーターとは、Jリーグのサッカーチームを応援する支援者のことです。更にこれから来るAI社会は、FtoFへ移行します。店とお客様の関係は、ファミリー(家族)へ近付けるでしょう。店はお客様と共感する社会が到来したのです。
⑤ オンリー・ワンを売る
ITとAI社会は超情報過多時代です。どこにでも有るモノは埋没して、誰も振り向きません。商品のオンリー・ワン化が困難でしたら、店名・販売員名を売り込みたいものです。オンリー・ワンで検索ツールのトップに立てば、全世界から注目され仕事が入ります。
6 「幸福接客」へシフトさせて売上増を量る
いま消費が冷え込んでいるのは、「モノ売り」に終始した「会話」を交わしているからです。「会話」とはモノを売る、誰にでも話す共通語です。しかしモノ在庫は店・問屋・家庭内に満杯です。その上ネット通販の発達で、「何処にもある」「何時も買える」「安い」の氾濫で、モノ欲求は激減しました。「モノ売り会話」はお客様の心を冷やすだけです。
これからは「対話」を駆使して、お客様の心を揺さぶりたいもの。「対話」とは親しい間柄だけに交わす言葉で、接客言葉は「お孫さん可愛い盛りでしょう」とか、「家族全員でグランピングを楽しみましょう」など、「幸福物語」の接客展開が臨まれます。「モノ欲求」は満杯ですが、「幸福欲求」は無限。お客様の心を熱くさせれば、売上高は無限大なのです。