水飼 茂の経営提言 (2012年3月26日掲載)

デジタルマーケティング時代の営業戦略 Ⅱ

「皮革業界人はもっと自信を持て」

IT社会が引き起こす3S革命
 ITはスモール、シンプル、シェアの3S革命を激しく進めます。3S革命は物の価格をゼロに近付ける革命ですから、凄まじい価格破壊により全ての産業を破壊し続けるでしょう。店を構えて販売員を置くリアル形態は、コスト面でネット店には敵わないからです。


スモール化社会が重厚長大産業を直撃
 IT革命は情報公開と超効率社会を進めます。情報公開によって非効率性が表面化して、政治や行政の巨額なムダ使いが洗い出されます。これは公共投資や政治家、公務員の削減を早めるでしょう。また超効率社会の到来は、ダウンサイジングを激しく進めます。自動車産業は大型車→小型車→電気自動車へ移行して構造が単純になり、部品数は1/3に激減します。大掛かりな設備投資を不要にしますから、町工場で車や家電を簡単に作れる時代が来るでしょう。

 アパレルも同様です。コート・スーツなど重衣料は古着屋かフリマで間に合わせ、ブラウス・スカートの中衣料や、キャミソールやTシャツやなどのインナーは、価格破壊により千円、百円、十円台で売られるようになります。店を構えて販売員を置く業態は採算が取れません。アパレルはもとより他の物販店は消滅するでしょう。


大企業といえどもアッと云う間に凋落
 IT社会は進展するにつれ価格破壊は加速度を増し、全産業の雇用を奪い続け、賃金を減らし続けます。産業破壊と流通破壊を進めるでしょう。これは現代の超グローバル企業と云えども、アッと言う間に凋落する現象を起します。現に世界のゲーム機のトップ企業の任天堂、電子産業の超優良企業であったソニー、パナソニックは巨額の赤字を計上しました。

 世界最大の産業自動車業界も、生残るのは困難と思われます。理由はトレンドを走る現代の若者達は、エコ・ライフを実践しているからです。彼らはCO2を大量に発生させる自動車、家・土地、大型家具・家電の消費に余り興味を持っていません。トレンドライフは若者達から発信されます。若者達から見放された業界に未来はありません。


シンプル化社会が物販店を破壊
 産業の代表挌である自動車産業やアパレル産業の凋落は、商業用不動産の下落を早め、土地の価格も次第にゼロへ近付けるでしょう。これは人々のライフスタイルを激変させます。土地や物は持つほど資産価値を減らすので「物を持たない」「物を捨てる」シンプル化社会を到来させるでしょう。

 このように考えますと人工的に造られたショッピングモールは、一部を除いて廃墟化を進めるでしょう。人間臭さを感じさせない人工的に造られたSCは、ネット上のモールで十分いう購買感覚を強めるからです。これから復活するのは自然発生的に生まれた商店街です。自然は人工より素晴らしい意識の到来です。現に私の生まれた川越の幸町商店街は、年間450万人の人出で賑わっています。


心を豊にするシェア化社会が到来
 IT革命は物を持たない革命ですが、残念ながら人間の強欲は急に歯止めは掛かりません。当面、物の生産は際限なく行われ、耐久消費財の家、土地、車、家具、衣料の流通在庫と家庭内在庫は社会に溢れかえるでしょう。超・過剰在庫社会の結末は、すでにある物(フロー)を上手に活用する時代が来ます。

 社会に物が溢れ、物の価格がゼロに近付くにつれ、人々の価値観は物の所有から離れ、心の豊かさを求めるようになります。仕事面ではコンピュータやネットワークを共同利用する、「クラウドサービス」への移管を進めるでしょうし、短期的に必要な時は、借りて間に合わす「リース・レンタル」化社会が到来します。これは社会を構造的な大変化を起します。大は国家間による領有権の主張、小は個人間の財産争いなどを無意味にします。人類誕生200万年以来初めて、争いのない平和な社会の訪れです。


物販店は靴・バッグしか生残れない
 こころを豊にする物のとは、「健康」と「快適」を併せ持つ商品です。「健康」は守る商品ではなく、病気にならない免疫力強化商品を差します。具体的にはファッションとエンターテイメント商品のこと、ファッションは自分の存在感を主張するものですし、エンターテイメントは気分をアゲる商品で、何れも免疫力を高め長寿効果は大です。これは100歳の現役医師・聖路加国際病院理事長「日野原重明先生」が仰っています。

 「快適」商品の代表格は自然素材品です。服やバッグは一度自然素材を身に付けたら、「快適」性の違いで元に戻れません。靴も同じ合皮より革、クロームなめしよりタンニンなめしの方が、はるかに「快適」で「健康」的です。他の産業が凄まじい価格破壊に見舞われる中で、靴・バッグだけが価格アップを続けらる、極めて稀有な業界なのです


靴・バッグの消費金額は堅調
 こうした流れはデータ面でも現われています。日本統計協会によれば1991年から2010年の20年間の世帯消費は、ほとんどの品目がバブル時の91年に比べて大きく低下しました。落ち込みの大きいのは家具や洋服などの耐久消費財で、いずれも半分以下の40%台です。中でも婦人服は26%と1/4しか買わない状態です。

 それに比べて靴とバッグの消費支出は堅調です。かばん類は81%、履物類は67%ですが、履物にはヘップや和履きも含まれていますから、靴類だけで見れば80%台です。婦人物だけで見れば、婦人靴の消費金額は婦人服を超えたと思われます。しかも履物類の消費金額は2004年以降横ばいを続け、減少していません。ファッション表現の主役は、大物の服から小物の靴・バッグへ移行したからでしょう。


靴がファッションの基幹産業になる
 これからリアル店は、接客を必要とする高価格商品しか生残れません。靴もケミカルや運動靴は千円以下になり、店舗販売では人経費も出ませんからネット店で売られるようになるでしょう。しかし革靴ならキップで2万円、カーフなら3万円、タンニンなめしなら軽く5万円を超えます。しかも靴合わせのフイッティング・サービスや、左右のサイズを合わせるアジャストメント・ワークなど、高度なサービスはリアルショップでなければ困難な技術です。

 価格破壊によって車、服、家具業界のリアル店が消滅していく中で、価格アップを続けられる靴・バッグ専門店だけが、安定的に成長を続けられる産業と考えられます。特に靴は健康面で欠かせませんし、消耗性の強い生活必需品でもあります。IT社会で生残れる物販業は、食品と靴・バッグしか見当たりません。中でも靴はファッション産業の基幹産業になるという、信じられない現象がこれから起きるでしょう。

 価挌破壊による産業構造の大変化は、日本から世界へ拡大するのは間違いありません。エコライフの拡がりは先進国はもとより、発展途上国へ波及して行きます。日本のライフスタイルが世界のトレンド・セッターの役割を果たすようになるでしょう。靴・バック業界も同様です。私たち皮革業界人はもっと自信を持って行動したいものです。


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